環境やライフスタイルが変わりゆく現代で、ロート製薬は、未来を見据えた提案ができるよう幅広い分野に挑戦し、日々研究開発に取り組んでいます。ロート製薬が目指すのは、生命が持つ力を引き出し、最大限に発揮すること。その実現に向けて、大学・外部の研究機関との共同研究を行う中、肌のエイジングケアの新たな一手につながる知見を発見!新たに完成させた“生きた肌により近い人工皮膚”を使った実験で、「肌を横に引っ張る力=張力すなわちハリが、皮膚の形や細胞の能力をコントロールしている」ことを解明し、さらに、張力がハリを生み出すメカニズムを活性化させる美容成分も見出しました。
今回はこの画期的な新発見をクローズアップ!研究開発を行ったスタッフが、分かりやすく解説します。
<目次>
語ってくれたのは、
研究開発 ロートネーム:きむしゅんさん
エイジングをお悩みの方にとって、肌のたるみは大きな課題ですよね。その解決に、今まではコラーゲン・エラスチン・線維芽細胞を増やそうとするアプローチが一般的でした。確かにこれらは加齢とともに減少しますが、研究者の立場としては、ただ増やすだけではなく、その先へのアプローチが必要だと感じていました。
例えば、長年強い紫外線を浴び続けたご高齢の方の肌は、シワが深くて、見た目にも硬そうですよね。
あれは紫外線による光老化の影響を受けているからです。そう聞くと、弾力線維が減った状態かと思われがちですが、実は逆で、エラスチンは紫外線を浴びるほど量が増えるんです。ただし、その増える状態が問題で、均一に広がらず、いびつに集まって硬くなるので、あのような肌状態になってしまうのです。
よく肌はバネに例えられますが、スチール(金属)に当たるコラーゲンやエラスチンはあくまでその材料。たとえ量がたっぷりあっても、形をきれいに整えないとバネの力を発揮できないことが、最近の研究で分かってきました。
そこで、「弾性線維を増やす」ことではなく、その先にある「ハリを復活させる」ことに目標を設定。そのために必要なのは「形の整った」弾性線維だという考えに行きつき、「量」から「形」へと課題を進めていきました。
シワ・たるみについて、皆さんの真のお悩みは、見た目=形の変化ですよね。そのお悩みに応えるために、形の整ったコラーゲンやエラスチンを作り、ハリを復活させたい。そう考えた時、「形」を研究するためには、どうしても立体組織としての人工皮膚が必要でした。
というのも、一般的な人工皮膚には張力すなわちハリが無く、いわば生きている体から切り取られてしまったような状態でした。その真皮の構造は、生きた皮膚の形態特徴が失われているので、シワ・たるみという「形」の変化を研究することはできません。
「それなら張力を再現して、生きた皮膚により近い組織構造や機能性を持つ人工皮膚を開発しよう」と考えました。
張力とは、皮膚の面に対して平行な方向に引っ張り合う力のこと。聞き馴染みがないかもしれませんが、立体的な皮膚が生まれ、維持される仕組みを担っている大切な力。怪我をして皮膚が切れた時、傷口がパカッと開くのは張力があるからなんですよ。
そのように皮膚の内部では“張力均衡”と呼ばれる、引っ張り合いやバランスを保つ力が常に存在しています。そこで、共同研究により、その張力均衡を人工皮膚で再現して、限りなく生きた皮膚に近い、新次元の高度な人工皮膚が完成したのです。
言葉にするとシンプルに聞こえますが、完成までにかかった期間は2年以上!とにかく張力均衡を再現するのが難しく、とても苦労しました。皮膚組織を再現したシートを引っ張りながら容器にセットする際、力を入れすぎると皮膚組織がつぶれてしまう。かといって、力が弱いと細胞自体の張力に負けて縮んでしまいます。しかも、なんとかコツをつかんでも、私だけが作れるのでは意味がありません。誰もが同じ力加減を再現できるように、製造用の金属サポーターを制作し、やっと完成にこぎつけました。
そうして開発した、張力均衡を再現した新たな人工皮膚は、細胞膜や細胞骨格、コラーゲン線維も水平方向に伸びてきちんと整列し、生きた皮膚により近い構造を持っています。
自ら開発したその人工皮膚で、張力均衡がもたらす肌への影響を調べるうちに、ハリの新たなメカニズムが分かってきました。
横に引っ張る力=張力自体が、皮膚のハリ・弾力の要となっていたのです。
皮膚に張力均衡が起きている状態というのは、コラーゲンを足場にしてくっついている線維芽細胞が横向きに引っ張られている状態です。線維芽細胞がグッと伸ばされる際の刺激によって、線維芽細胞内のMRTF-A(転写因子)が活性化。核の中へと移動し、DNAにくっついて、コラーゲンやエラスチンなどの遺伝子発現(RNA合成)がスタートするのです。さらに、表皮の細胞にもアプローチして、ターンオーバーが促進されることも分かりました。
つまり、真皮にある線維芽細胞に張力がかかることで、まるでスイッチが入るように、コラーゲン・エラスチンの合成やターンオーバーが促進されることが、人工皮膚や細胞を使った実験で確認されたのです。
肌の張力(ハリ)がコラーゲン繊維から 繊維芽細胞に伝わる
↓
繊維芽細胞が伸びる際にMRTF-Aが 活性化
↓
コラーゲンやエラスチンの合成を開始 ターンオーバー機能を促進
上でご説明した、張力という物理的な力によってハリを生み出すサイクルのスイッチを入れるメカニズムは、“生物物理学”や“メカノトランスダクション(機械的シグナル伝達)”と呼ばれる、昨今注目されている新しい研究分野です。以前なら、何らかの成分でアプローチするのが一般的だった生体内の働きを、“力をシグナルに変換してアプローチ”するのです。
今回の人工皮膚を使った研究でも、“張力をかける”という物理的なアプローチが、肌のハリを高めるために重要であることが分かりました。というと、ハリUPには、肌に張力をかけるマッサージが効果的だといえそうですが、やみくもに力をかければいいというものではありません。細胞の力には向きがあって、シワと垂直な方向にかかっています。そのため、適切に張力を与えるには、シワを伸ばすように引き上げるのが正解。肌のハリを高めたい方は、スキンケアの際に、正しく張力を与えるマッサージを取り入れてみるのもいいですね。
また、物理的なアプローチ以外にハリのスイッチを入れる成分があるか、新たな人工皮膚で研究を進めました。そして、ロート製薬のライブラリーにある約500種類の素材を調べる中、“シャクヤク”が、線維芽細胞に働きかけて、ハリのスイッチを入れるMRTF-A(転写因子)を増やすことも判明しました。
今後のスキンケアへの活用に向けて、さらに研究を進めたいと思います。
スキンケア研究の基盤ともいうべき、人工皮膚を見直すことから始まった今回の開発は、新しい挑戦の連続。コラーゲンやエラスチンといったハリの材料を増やすという「量」から、ハリをもたらす「形」へ研究を進めたことで、ハリを生み出すスイッチを入れるアプローチを、成分だけでなく、物理的な力にも見出すことができました。この新発見は、お悩みの多いハリ・弾力を高める新しい選択肢につながるのではないかと期待しています。 これからもロート製薬は、科学的なデータと実績にこだわる製品作りを続けていきたいと考えています。今後の新たなスキンケア製品にご注目ください!