今、世界的に近視になる人が増えていることをご存じでしょうか。とくに日本を含む東アジアの国で近視になる人が多く、WHO(世界保健機関)も世界的な近視人口の増加について、早急に対策をする必要があると訴えています。近視になりやすい子どもの特徴や、近視を予防するための生活習慣、眼科でできる対策など、子どもの将来のために知っておきたい近視予防についてご紹介します。
教えてくれたのは
慶應義塾大学病院 眼科
森紀和子先生
眼科専門医。福島県立医科大学医学部卒業。長野県厚生連佐久総合病院での研修後、信州大学医学部眼科学教室に入局。眼科専門医取得。その後、子育ての傍ら近視研究を本格的に開始するため、慶應義塾大学院医学研究科博士課程に進学。現在に至る。
次のグラフは、全国の子どもたちを対象に厚生労働省が行った「日本の小学生・中学生・高校生それぞれの、裸眼視力1.0未満の子どもの割合の推移」についてのデータです。
2019年度では、小学生の3人に1人以上、中学生では半数以上、高校生では3人に2人以上が視力1.0未満という結果が出ています。
驚くことに、調査を開始した約40年前と比較すると、視力1.0未満の小学生の割合は倍増しているのです。
また、慶應義塾大学医学部の研究チームが東京都のある小学校と中学校で行った調査で、小学生は約77%、中学生は約95%が「近視」であったということが、明らかになりました(2017年、東京都内の小中学生約1400人を対象とした調査/2019年8月発表)。さらに、小学1年生の段階で、約63%もの子どもがすでに近視になっていることもわかったのです。
さらに、近視の子どもの割合が増えているだけでなく、“近視になる時期の低年齢化”と“近視の強さ”も進行しているという研究結果もあり、大きな問題になっています。これは、近視になる年齢と近視の度合いの強さには関連があり、“近視になる年齢が低くなるほど、将来の近視の度合いが強くなる”と考えられています。
近視が進み「強度近視」という状態になると、単に見えにくいとか眼鏡やコンタクトなどの視力矯正が必要というだけでなく、将来的に、網膜剥離(もうまくはくり)や緑内障など失明につながるような深刻な眼疾患のリスクが高まるといわれています。先ほどご紹介した慶應大学の調査では、なんと中学生の約11%が、すでに「強度近視」の状態にあるというデータもあります。
まずは近視を予防すること、そして、近視の傾向があれば進行を抑えるための対策をできるだけ早く始めることが、子どもの将来のリスクを減らすために重要です。
「近視予防を始めるなら、できるだけ早い方が良い」と考えられています。
というのも、近視になる主な原因は、“眼軸(眼球の奥行き)の長さが伸びすぎてしまう”ことだからです。年齢とともに身体が成長するように、眼球の大きさも成長します。眼軸の長さが伸びすぎる原因は、環境面と遺伝の両方にあると考えられています。
環境面のなかでも、今、とくに近視との関係が強いとして注目されているのが、“屋外で遊んでいるかどうか”。両親が2人とも近視でも、1日2時間以上屋外で遊んでいる子どもは、近視になる確率が低くなるというアメリカでの調査結果もあります。
※眼軸とは : 角膜前面から網膜までの軸線を指す
先ほどお伝えしたとおり、近視の発症や進行には、生活環境が強く影響している可能性があることがわかってきています。
では、どんな子どもが近視になりやすいのでしょうか? 次の項目で思い当たることがあれば、注意が必要です。
≪近視になるリスクが高い子どもの特徴≫
また、子どもに次のような様子がある場合、すでに近視が進行し始めている可能性があります。
≪注意したい、近視のサイン≫
早く始めるほど効果が高いといわれている、近視予防。今日から見直したい生活習慣や、眼科で相談できる最新の近視対策をご紹介します。
近視を予防したいなら、次のことに気をつけましょう。
眼科医に近視対策について相談することも可能です。当事者である子どもと、担当の眼科医とよく相談をして、ひとりひとりに合った方法をとりましょう。
※2020年1月現在では、一部自費診療のものもあります
一度近視の症状が出始めたら「強度進行」にならないように、「近視の進行を遅らせる」ための対策をすることになります。近視の傾向がみられる場合は、できるだけ早く対策を始めることが重要です。
また、残念ながら、こうした対策をすることで近視の進行を予防できる子もいれば、できない子もいます。一方で、ほとんどの子どもは自分の目について無頓着。誰にでも有効な100%の近視予防法はまだありませんが、子どもが「対策をする・しない」を選ぶためには、保護者の知識が不可欠です。医師と相談しながら、納得のいく選択をしてください。
子どもの目には、不安がつきもの。ここでは、保護者の方が抱きやすい悩みに回答します。目に不調には病気が隠れている可能性があるので、気になることがあれば、眼科を受診するようにしてください。
Q1. 子どもが学校の視力検査で紙をもらってきたら、どうすればいい?
小学生くらいの子どもの場合、学校の視力検査ではDだったのに、眼科で視力検査を受けたらAになる……というケースが実は少なくありません。これは、健康診断のときにまわりの子どもと遊んでしまったり、隠した方の目をぎゅっとつぶってしまったりすると、本来はちゃんと見えているのにDになってしまうようなことも珍しくないからです。
正しく視力を測定するために、まずは一度、眼科を受診することをおすすめします。
Q2. コンタクトレンズは何歳からつけるのが正解?
子どもの性格や気質、保護者がどれくらい子どもに関われるかによっても判断が変わるため、「●歳になればコンタクトレンズをつけてOK」という基準はありません。眼科医の判断によって、小学生からコンタクトレンズを処方することも、中学生・高校生になってからでないとコンタクトレンズは処方しないこともあります。子ども自身の希望や必要性をふまえてかかりつけの先生と相談してください。
Q3. 外遊びが難しいときに、屋内でもできる近視対策はある?
成長期の子どもにとって、屋外に出てさまざまな刺激を受けることは、視力だけでなく五感の発達を促す意味でもとても重要です。できれば外で遊んでほしいところですが、難しい場合は、日当たりの良い場所にある窓を開け、室内に日光を取り入れながら窓際で過ごすようにしましょう。また、先にご紹介した「クロセチン」を摂取するのもおすすめです。
子ども自身が小・中学生のうちは、近視が進行することの深刻さについてちゃんと理解できていないのが普通です。今現在はもちろん、子どもの将来の目を守るために、保護者が目を配ってあげましょう。